お産を控えている妊婦さんにとって、陣痛と同じくらい気がかりなのが「会陰(えいん)切開」。「会陰切開」という言葉は知っていても、なぜ、どのように行われるのかは意外と知られていないもの。
どんなふうに行うのか、必ず行わないといけないのか、痛みはどのくらいなのか…会陰切開の気になることを産婦人科医の鄭智誠先生に聞きました。
プレママ&先輩ママの【会陰切開】アンケート
※妊娠出産育児雑誌「プレモ」「ベビモ」読者の中からプレママ100名、ママ100名に郵送でアンケート。2019年2月実施。
会陰切開はした?
●した…91%●しなかった…9%実に9割以上の人が会陰切開を経験していました。しなかった人の中には帝王切開が含まれているので、実際にはもっと高確率に。
出産した病院は?
●大学病院・総合病院…45%●個人クリニック…48%●助産院…7%会陰切開をしたかどうかは、産院の規模や種類には関ありませんでした。助産院でも、必要な人には会陰切開がされています。
妊婦さんに「会陰切開」について聞いたところ、「根拠はないけどしなくてすむ気がする…37%」、「多分するだろうと思っている…55%」、「何も考えていない&その他…8%」という結果になりました。
会陰切開のことは全員が知っていましたが、こわいものから目をそらしたいのか、しなくてすむ気がすると答えた人が4割近くに。
【会陰切開】はお産によるダメージを回避するためのもの!
会陰とは、腟と肛門の間と、その周辺の部位。分娩時には会陰が伸びますが、お産の早さに伸びが間に合わなかったり、伸びが悪かったりすると、裂けることがあります。
それを防ぐため、事前に切るのが会陰切開です。実際に切るかどうかは、どのくらい会陰が伸びるかがカギ。これには個人差があり、もともと伸びがいい人も悪い人もいます。マッサージなどで努力しても、確実に回避する方法はありません。
デリケートな部位を切ると聞くと、こわいと感じますね。でも、大きく裂けると傷がギザギザできれいに修復しにくかったり、ほかの臓器にまでダメージを与えてしまったりすることがあり、かえってつらいことが多いのです。
会陰切開はダメージを最小限に抑える処置だと、前向きにとらえてください。
【会陰切開】産婦人科のドクターに見解を聞きました
【アンケートにお答えいただいた先生方】浦野晃義先生(育良クリニック)/大井隆照先生(おおいウィメンズクリニック)/北川道弘先生(山王バースセンター)/升田春夫先生(三枝産婦人科医院)/松峯寿美先生(東峯婦人クリニック)/三浦直美先生(みうらレディースクリニック)/善方裕美先生(よしかた産婦人科)
Q.会陰切開は行う?行わない?ほぼ全例で行うという医師を含め、すべての医師が必要な場合は躊躇せず行うという回答でした。
Q.会陰切開率はどのくらい?(初産婦の場合)これにはバラつきが出ました。「赤ちゃんの命を守る目的以外での切開は、必要ないと考えています」、「産道の裂傷が大きくなったり、赤ちゃんの状態が悪くなったりするような場合は、すみやかに行います」、「見た目には裂傷がなくても深部筋層に断裂が出る場合があり、予防的に切開したほうが治りが早い」との意見が。
Q.会陰切開したくないという妊婦さんがいたら?●バースプランなどで事前にカウンセリング。必要になるケースを説明し、必要と判断されたら行うことの了解を得ます。(浦野晃義先生)
●赤ちゃんの心音や分娩の進行に問題がなければ、ご本人の希望に応じます。(松峯寿美先生)
●しっかり話し合いをします。赤ちゃんの命を守るためには必要な場合があることを理解してもらいます。(善方裕美先生)
【会陰切開】出産前に知っておきたい5つのこと
①〈いつ切る?〉赤ちゃんの頭が1/3ほど出てきたら会陰切開のタイミング
会陰切開のタイミングは赤ちゃんの頭が常に見えている状態=発露(はつろ)を迎えたころ。赤ちゃんの頭が1/3ほど出てきたら、会陰の伸び具合や頭の大きさを見て、切開するかどうかを判断します。
頭の幅が一番広いのは1/2の部分なので、1/3の段階で会陰にひびが入っているようなら裂ける可能性大。この場合はたいてい切開します。逆に、この段階で会陰がもう少し伸びそうなら、切らずにすむことも。
ほかにも、吸引分娩や鉗子分娩で急にお産が進むと、会陰の伸びが間に合わないことがあるため、予防として切開することもあります。このように会陰が大きく裂けそうなとき、リスクを避けるために行います。
②〈どう切る?〉切り方は二通り。会陰の伸び具合で医師が判断します
会陰切開はメスではなく、医療用のはさみを使い、会陰を薄く広げて伸ばしながら切ります。赤ちゃんと会陰の間に指を入れてすき間をあけ、保護しながら切るので、赤ちゃんを傷つけることはありません。
切開の方向は大きく分けて二通り。一つ目は、腟から肛門に向かってまっすぐに切る「正中(せいちゅう)切開」です。
腟から肛門までは距離が短いので、切るのは1~3㎝程度。会陰の伸びがわりとよく、少し切れば赤ちゃんの頭が出てきそうな場合に行われる方法です。「正中切開」は出血量が少なく縫合しやすいため、術後の痛みも少ないのですが、少ししか切開できません。
そのため、会陰の伸びが悪くて大きく裂けそうな場合は、二つ目の「正中側(せいちゅうそく)切開」を行います。これは腟から肛門の側方に向かってななめに3~5㎝程度切る方法。正中切開より長く切れるために、裂傷のリスクは小さくなります。
お産は十人十色です。医師はお産の進み具合や会陰の伸び方を見ながら、切開するかどうか、切開するならどの方向に切るのかを、お産ごとに判断しています。
\先輩ママvoice/麻酔直前、どこに麻酔をするのか、切る長さなどこまかく聞いていた私(笑)。知りたいことは聞いたほうが安心です。(ひろこさん)
③〈どうしても必要?〉切らずに大きく裂けると深刻なダメージを負う危険性が
赤ちゃんが腟口を出るためには、会陰が十分に伸びて広がる必要があります。伸びが不十分で裂けてしまうのを避けるために行われるのが、会陰切開です。裂けても切開しても切れることに変わりはないのでは?と思うかもしれませんが、そうではありません。
切開の場合、切れる方向をある程度誘導することができます。たとえば1枚の布を2枚に切る場合、最初にはさみで切り目を入れればその方向に切れていきます。切り目なしだとまっすぐに切れなかったり、場合によっては横に切れてしまうこともありますね。
また、切開なしで腟口が大きく裂けてしまうと骨盤底の筋肉や肛門、ひどいときは直腸までダメージを受けることがあります。
筋肉が裂けると修復がむずかしく、緊急オペが必要になったり、さらにひどい場合は排便機能に支障が出たり、その後の生活に影響を及ぼしかねません。また、会陰切開の痛みは、裂けたときにくらべると軽くすむ傾向があります。
では実際、どのくらいの人が会陰切開をしているのでしょうか。私の経験では、初産婦さんは7~8割、経産婦さんで5割程度のイメージです。この割合は病院によっても違いますが、必要なときにはすみやかに行うのが基本です。
医師は誰かれ構わず一律的に切開しているわけではなく、状況に応じて行っています。会陰切開はお産のリスク回避のため、必要なものであると心得ておきましょう。
\先輩ママvoice/奥まで裂けてしまったようで縫いました。麻酔が効きづらかったのか、かなり痛くて…。産後1時間近く分娩台の上で処置するはめに。(アリッサちゃんママさん)
\先輩ママvoice/裂けた感覚や裂けそうな感覚はあったものの、陣痛の痛みが強く、裂けた瞬間の痛みはまったく感じませんでした。(めぐみさん)
④〈切開後は痛む?〉痛みは早い人は数日で落ち着きますが、一般的には1~2週間
個人差はありますが、痛みは短くて数日、通常は1~2週間続きます。「切ったら弱めに縫ってください」と頼んでおくと考慮してくれる場合もあり、痛みが軽くすむかもしれません。
痛みが長引く・膿が出る・熱感をともなう場合は、傷口が感染している可能性が。また、鮮血が出る場合も要注意。まれに縫ったところに肉芽ができ、そこから出血することがあります。これらの症状が出た場合は、早めに病院を受診しましょう。
⑤〈切らずに済む方法は?〉マッサージをしても切る人は切る。劇的な効果はなさそう
会陰の伸縮性には個人差があり、マッサージやパックをしても、それが大きく変わることはありません。ですから、何もしなくても切開せずにすむ人もいれば、前もって準備していたのに結局切開する人もいます。
ただ、マッサージやパックをすると会陰が少しやわらかくなるので、もし切開することになっても傷の大きさ、回復の早さが違ってくる場合があります。余裕のある人はやっておくといいでしょう。
まだまだ気になることいっぱい!会陰切開Q&A
Q.切開のとき麻酔はする?
病院によって違いはありますが、麻酔をするのが一般的。その場合、会陰切開する部分に注射を打ち、局所麻酔をします。妊婦さんは陣痛の真っ最中なので、麻酔をしなくても痛みを感じなかった、という人も多いようです。
Q.傷口におしっこやうんちのばい菌が入ることはない?
傷口を清潔にしていれば、排尿・排便によるばい菌感染はほとんどありません。今は多くの病院が溶ける糸で縫合しており、抜糸がないので傷口を水洗いしてもOK。トイレ後に清浄綿を使ったり、入浴時に軽く洗ったりしましょう。
\先輩ママvoice/抜糸はしないと聞いていたのですが、退院前の診察で「傷口がつっぱっている」と言われて抜糸。私は抜糸しなくても平気だったのにな…。(あすかさん)
Q.助産院でも会陰切開をすることがある?
助産院は自然なお産を推奨しているため、なるべく切らずにすむよう、助産師が会陰を保護しながら分娩介助します。とはいえ、絶対に切らないというわけではなく、大きく裂ける危険性がある場合は助産師が会陰切開をすることもあります。
Q.赤ちゃんが大きめだと必ず会陰切開になる?
赤ちゃんの体というより、頭の大きさによります。出産の経過や会陰の伸び具合でも違いはありますが、頭が大きいと切開する確率は高め。逆に体が大きくても頭が小さく、スムーズに出てくるようであれば、切開せずにすむ場合もあります。
Q.2人目出産のとき、縫ったところが裂けない?
会陰切開を縫ったところが2人目分娩の勢いで裂けることはありません。2人目以降で会陰切開する場合、初産の傷とは関係なく、一番適した場所を切ります。ちなみに、出産直後の排便などでいきんで切開のあとが裂けることもありません。
Q.切迫早産ぎみです。会陰マッサージをしてもいい?
会陰マッサージをしても会陰切開が避けられるとは限りません。多少は会陰がやわらかくなるかもしれませんが、切迫早産の人はマッサージが刺激になり、早産のリスクが高まる可能性があります。37週を過ぎ、いつ生まれてもよい状態になってから行ってください。
Q.会陰切開は海外でも行われている?
海外でも会陰切開は行われていて、アメリカでは1980年代までほぼ100%行われていました。その後、さまざまな研究を経て、今の日本と同じように「必要な場合は行う」という流れに落ち着き、会陰切開の割合は少し減っています。
_______
記事を読む⇒⇒⇒
妊婦中から知っておきたい!「産後の体」に起こりがちなトラブル7つ。セルフケアの方法って?記事を読む⇒⇒⇒
【陣痛の痛み】逃し方&和らげる方法を紹介。先輩ママの陣痛乗り切り体験談も【産婦人科医監修】