保育士になって14年。いまも現役保育士として働きながら、メディアで情報を発信したり、顧問保育士として他園にアドバイスしたり、活動の幅を広げている〈てぃ先生〉。長引くコロナ禍で子育てをとりまく環境も厳しくなっているいま、ママやパパにあたたかいメッセージをおくります。
「子どもと同じくらい自分も大事にする」「子どもを一人の人間としてとらえる」この二つを大切にすれば、子育てが楽しくなります!
親に余裕がないといいアドバイスも実践できない
編集部 保育士になってから14年とお聞きしました。保育士になった当初からこれまで、どのような心境の変化がありましたか?
てぃ先生 最初は、子どもといるだけで楽しかったんです。もちろんいまも子どもといるのは楽しいし、おもしろいんですけど、それプラス、どうやったらママやパパのお役に立てるかなとか、どうやったら地域をはじめ、社会全体が子育てや保育に対してもっと関心を持ってくれるかなということが、最近の僕にとっては大事なことになってきていますね。
編集部 なぜ、そう考えるようになったのでしょうか。
てぃ先生 やはり子育てって結局、親のあり方や社会が反映されるものなんですね。僕も現場やメディアで子育てについて、いろいろアドバイスしていますが結局、それを実践するには、気持ちにしても時間にしても、親側の余裕がないと、いくらよい方法があってもよい子育てにはつながりません。
そういう意味で、子どもに対して、こうできるというよりは、まず親御さんたちに、どうしたらラクになってもらえるかなと…。気持ち的な励ましや子育てのアドバイスを発信しているんです。
ほんのちょっとしたことでも、それで赤ちゃんとの関わり方が変わったり、関わること自体、おもしろくなったり、楽しくなったりしたら、ママやパパは、もっと子どものこと大好きになれる。そんなヒントを多くのママやパパと共有できたら、うれしいなと思っています。
てぃ先生の考える子育てで大切な二つのこと
編集部 あらためて、てぃ先生は、ママやパパが赤ちゃんと向き合うときに大切なことって、どんなことだと思いますか。
てぃ先生 二つありますが、どちらもすごくシンプルです。一つは、とにかく「赤ちゃんと同じくらい自分も大事にする」ことです。
子育てや保育というと、ついヒエラルキー的に子どもをトップにおいて、その下に親や保育士をおきがちです。これがいわゆる自己犠牲。もちろんそんなヒエラルキーはないし、子どもの価値も親や先生の価値も全く同じところにあるのに、どうしても子どもの価値を上においてしまうんです。
でも、そうやって子どものことばかり大事にしていると、親に何が起きるか。ふとしたタイミングで、あれ、私の幸せは?俺の幸せは?って気づいて、どっと疲れがくるんです。
子育てのために、おしゃれをがまんする、美容院もあまり行かない、仕事もやめる…。いままで「子どものために」と思ってやめたことが、いつしか大きなストレスになって「子どものせいで」に変わるんですね。
子どものせいで、おしゃれができない、髪の毛も切りにいけない、仕事もやめたと。子どもをヒエラルキーのトップにおいた子育てをしていると、必ず訪れる悲劇です。
編集部 特にママは、産後は自分にかけるお金や時間が減ったと感じることが多いようです。でも、それは赤ちゃんにとっても、よくないということですね。
てぃ先生 そうなんです。ママやパパが自分のために、もっとお金や時間を使って、そこで生まれた余裕やうれしさ、幸福感って子どもにも伝染していきますよね。だから、子どもと同じくらいママやパパは、自分のことを大切にしてほしいなと思います。
それに、ママやパパにも親御さんっていますよね。やっぱりその親御さんも自分の子どものこと、つまりママやパパのことを大切に思っているから、子どもががんばりすぎて疲弊しているところなんて見たくないですよね。
だから、自分の親のことを考えても、やはりご自身のことを大切にしてほしいんです。そうでないと、いくらよいアドバイスがあっても、実践するのは難しいだろうなというのが、僕の実感です。
編集部 ママやパパたちは、ついがんばりすぎてしまうのかもしれません。
てぃ先生 今回のベビモの企画では遊び方のコツをアドバイスしましたが(
0歳・1歳の子どもと一緒に遊ぼう!現役保育士てぃ先生が教える〈体遊びのスゴ技〉とは?)、ママやパパが疲れているときは、遊ぼう遊ぼうって無理に考える必要はないと思うんですよ。
特にいまは保育園に預けるのが主流ですよね。そうしたら保育園では十分に遊んでいるので、家に帰ってからも遊ばないとって思わなくてもいいかなと思います。
家では、手を握ったり、お話ししたり、ママやパパとおだやかにスキンシップするだけで赤ちゃんは十分に満たされます。もちろんいっしょに遊ぼうって求めてきたら、遊べばいいですが、お子さんが求めてもいないのに、親のほうから遊ぼう、何して遊ぶ、遊ばなきゃとは考えてほしくないですね。
編集部 もう一つはどんなことですか?
てぃ先生 これは究極的にシンプル。「子どもを一人の人間としてとらえる」ということです。これに尽きるかなと思っています。
たとえば会社で同僚に「水をとってほしい」と頼むとします。そのとき、こちらは同僚がどうしたら、いやな気持ちにならないように、気持ちよく水を持ってきてくれるかなって考えますよね。
でも、いざそれが子どもになると、部屋が散らかっていたら「おもちゃ、片づけなさい」「なんで、まだやっていないの」など、同僚には絶対にしないような命令口調になります。同僚に「なんで、水持ってきてくれないの」って言わないですよね。そんな言い方をしたら、相手がいやな気持ちになるのがわかっているからです。
でも相手が子どもになると「子どもなんだから、親の言うことを聞いて当たり前」という発想になって、そこの意識が薄くなる。そんな言い方で子どもが言うこと聞くわけないよね、っていう伝え方になってしまうんです。そうすると当然、子どもは言うことを聞かないし、それで親御さんはイライラするし、と悪循環に…。
むずかしく考える必要はありませんが、同僚や友だち、パートナーなど大人に対してお願いするときと同じ思考や工夫で、子どもに接したら、うまくいくことって山ほどふえるんじゃないかなと思いますね。
編集部 確かに、親はつい赤ちゃんに言うことを聞かせたくなってしまいます…。
てぃ先生 たとえば友だちと食事に行って、友だちがブロッコリーを残しても「早くもう一口食べたら」って言わないですよね。それは友だちを一人の人間の価値として「ブロッコリーが嫌いなんだね」と認めているから言わないわけであって、それがわが子になると「ブロッコリー食べなさい」になってしまう。
でもわが子を一人の人間として意識したら、そういう発言もなくなるのになと思います。僕からお伝えしたいのは、基本的にこの二つですね。
編集部 この二つは心に留めておきたいですね。最後に、てぃ先生の今後の夢や目標をお聞かせください。
てぃ先生 引き続き、ママやパパのお役に立ちたいと思っていますし、いままではどちらかというと幼児さん向けの情報発信が多かったので、これからは0歳、1歳ぐらいの子や妊娠中の人にも発信していきたいと思っています。期待してください!
てぃ先生
●保育士・育児アドバイザー。キャリア14年の現役保育士として、かわいらしい子どもの日常をつぶやいたTwitterが好評を博し、著書を続々と出版、メディアでも大活躍。2022年4月よりEテレ『ハロー! ちびっこモンスター』にレギュラー出演。子育てや保育に関するアイデアを発信したYouTubeチャンネルは登録者数72万人。他園に保育内容をアドバイスする「顧問保育士」の創設と就任など、保育士の活動分野を広げる取り組みにも積極的に参加している。
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