ドクターズインタビュー1回目は、東京都豊島区で「小川クリニック」を開業している産婦人科医の小川隆吉先生。今や5人に1人と言われている「帝王切開」の話を中心に、帝王切開でも後悔を残さない出産体制や産後ママの体のケア法などについてお聞きしました。
高齢出産が増え、帝王切開でのお産も増えている
私のクリニックに限ったことではありませんが、今は帝王切開での出産が増えています。
厚生労働省の医療施設動態調査(平成27年)によると、20数年前に比べると、帝王切開での出産は約2倍の19.7%。5人に1人は帝王切開で出産しているということになります。
これは、高年出産が増えてきたことが大きな要因のひとつです。
さらに、医療技術の進歩によって、帝王切開による出産が「安全に生むための出産方法である」という認識が深まってきたことも帝王切開が増えている理由と考えられます。
帝王切開の2パターン
・予定帝王切開子宮筋腫や前置胎盤、多胎妊娠など、さまざまな理由で出産前経腟分娩が難しいと判断され、事前に手術日を決めて行う帝王切開。
・緊急帝王切開妊娠中や分娩中におなかの赤ちゃんの状態が悪くなったり、母体になんらかのトラブルが起きたとき、早急に赤ちゃんを取り出すために行う帝王切開。
年齢に関係なく、初診のときに「帝王切開になる可能性」を説明
妊婦さんの体質や持病、妊娠経過などを踏まえてトータルで判断しますが、帝王切開になる可能性は年齢と比例して高まってきます。
そのため、私のクリニックでは、42歳以上で初産の方は、帝王切開での出産を前提にお話させていただきます。
妊娠経過で問題がなく、経過が順調であれば経腟分娩で出産することもありますが、初診で必ず帝王切開の説明をし、そのうえで分娩予約を受けつけています。
逆に42歳以下であれば経腟分娩を前提にしますが、「何らかのリスクが生じた場合は帝王切開による分娩になる可能性がある」とお伝えしています。
帝王切開によって後悔の気持ちが生まれないよう、説明は丁寧に
帝王切開は開腹手術です。初めての開腹手術が帝王切開となる女性も多いため、帝王切開の可能性のある方への説明には時間をかけるようにしています。
帝王切開の目的は、赤ちゃんと母体の安全のためであることに納得していただくまで、丁寧にお話させていただいています。新しい命の誕生のときに、後悔の気持ちは持っていただきたくないですからね。
妊婦さんとしては、初めて産婦人科を受診し、帝王切開の説明があるというのは少し不安に感じられるかもしれません。
ですが、妊婦さんのほうからも遠慮なく質問していただいて、安心して妊娠生活をすごせるようにコミュニケーションをとることを大事にしています。
自然分娩へのこだわりがあっても、最終的には「前向きなお産」に
「できれば自然分娩をしたい」と希望される方もいらっしゃいますが、リスクやママと赤ちゃんの状態をお話すると、赤ちゃんのことを第一に考えて、みなさん気持ちを切り替えているようです。
予定帝王切開の場合は、事前に帝王切開が必要となる理由を納得していただけるまで丁寧に説明しますので、最初は残念に思っている方でも、徐々に帝王切開になることを受け入れて、みなさん前向きにお産に臨んでいます。
陣痛が始まってから、急きょ帝王切開になった場合は、改めて丁寧に説明する時間はありませんが、分娩中はずっと分娩監視装置を装着しているため、おなかの赤ちゃんの様子はママ自身にリアルに伝わります。
それで、赤ちゃんと一緒に頑張ろうとママも気持ちを強く持てるのだと思います。
また、少しでもリスクのある場合は医師や助産師がつきっきりでいますので、安心して手術を受けていただけますし、こちらも少しでも不安感がなくなるような環境作りを心がけています。
分娩のリスクを回避し、赤ちゃんとママが無事に対面するために必要なことが帝王切開であるということを、ママ自身が理解することで、帝王切開の不安や自然分娩へのこだわりはなくなっていくのではないでしょうか。
緊急帝王切開になった方にお伝えしていること
妊婦さんにとって緊急帝王切開は、できれば避けたかったやむを得ない出来事。産後、落ち着いてから、「やっぱり経腟分娩で産みたかった」と思うことがあるかもしれません。
でも、緊急帝王切開を「陣痛の途中で断念した」とマイナスに受け止める妊婦さんはいません。
中には、緊急帝王切開に対して「どうせ帝王切開になるのなら、最初から切ってもらえばよかった」という気持ちを抱く方もいます。そういう方には、「その陣痛は意味のあることなんだ」とお伝えしています。
陣痛があったことで、赤ちゃんの肺を丈夫にし、子宮の戻りを促す効果も
経腟分娩では何らかのリスクが生じる可能性があるから帝王切開に切り替えたわけで、赤ちゃんもママも無事であることの幸せをまずかみ締めて欲しい。
そして、陣痛が起きているということは、子宮口が開いてきているということ。赤ちゃん自身も陣痛の力によって外へ外へと向かって進みながら、肺の呼吸運動の準備を始めているところです。
たとえ陣痛の途中で帝王切開に切り替えたとしても、陣痛を経験したことが赤ちゃんの肺を丈夫にし、産後のママの子宮の戻りを促すことにつながります。ですから、経腟分娩から緊急帝王切開に切り替えたことは、赤ちゃんとママにとって意味のあること。
出産のカタチは一人ひとり違います。帝王切開になったとしても、負い目を感じることは何ひとつないのです。
予定帝王切開の方も、自然分娩だった人に引け目を感じることはない
予定帝王切開も同じです。経腟分娩で産んだママに対して引け目を感じることがあるようですが、どちらもおなかの中で赤ちゃんを大切に育ててきたから、母となった今があるんです。
引け目を感じることは決してありません。
私のクリニックでは、帝王切開での立ち会い出産はしていません
クリニックによっては可能なところもありますが、私のクリニックでは、帝王切開での立ち会い出産はしていません。
帝王切開は開腹手術ですので、出血量が多く、出血に慣れていない方にとってはショックが大きいと思われるからです。
ただし、予定帝王切開で立ち合い出産を希望される方には、開腹手術で赤ちゃんを取り出したらすぐにご対面いただけるように、手術室のカーテン越しに待機していただくことは可能です。
赤ちゃんの産声もしっかりと聞こえますし、赤ちゃんとの初対面もできますよ。
実は麻酔を使った帝王切開後でも、すぐに授乳は可能
帝王切開の場合、麻酔剤が体に入るので、赤ちゃんにすぐに授乳できないと思っている方がいますが、母乳を通して麻酔剤が赤ちゃんに影響することはありません。
ですから帝王切開後、すぐに授乳することは可能なのですが、赤ちゃんを取り出した後は、母体の術後の処置をすぐに行いますし、赤ちゃんも生まれてすぐは呼吸が安定しないことがあるので、保育器に入る場合もあります。
そのため帝王切開の場合は産後すぐではなく、少し落ち着いてから授乳する場合が多いです。
帝王切開の術後について
帝王切開の手術の傷は、1週間ほどでふさがります。
傷口の治り方や痛みの感じ方は個人差がありますが、「昨日よりもつらくない」なら快方に向かっているサイン。
傷口が悪化すると、痛みはどんどん強くなっていくからです。
昨日よりも痛みがの強い場合は、入院中であれば我慢せずに申し出てください。また、退院後であれば受診してください。
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退院から1カ月健診までの間が、実はいちばん心配な時期
帝王切開に限りませんが、妊娠、出産、産後にかけて、女性の体はホルモンバランスが乱れます。その乱れは、ジェットコースター並みの高低差があります。そのために心も調子が悪くなることも。
産後の女性は誰もがそうなのですが、生まれたばかりの小さな命を守ることに必死で、自分のことは後回しにしがちです。不調を感じていても無意識に我慢してしまうことも。
だから、何かちょっとしたことでも心配なことがあれば、「1カ月健診を待たずに受診してください」と伝えています。
入院中は医師、助産師、看護師がそばについているので、こまやかにケアすることができますが、退院から1カ月健診までの間が心配なのです。
例えば、産後、出産を終え、赤ちゃんの顔を見ながら、幸せな気持ちなのにわけもなく涙が出るようなら、マタニティブルーズの可能性も。
マタニティブルーズとは、出産直後から産後数日までに一時的な気分の変調のこと。これは誰にでも起こる自然な現象で、2週間くらいで自然と落ち着いてくるので心配ありません。
ただ、気分の落ち込みが2週間続き、妊娠前に比べて自分が「元気がない」「やる気がない」と感じるようなら、すぐに受診してください。そのまま放置してしまうと産後うつに発展し、日常生活に支障が生じることもあります。
産後は自分のことは二の次で、赤ちゃんのお世話を第一にしがちですが、体調や心の変化を感じたら、出産した産婦人科にまずは相談してくださいね。
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