精神科医で産業医の井上智介氏によれば、近ごろ増えているのが、幼児や小学生の子どもを育てるパパ&ママからの相談。
育児に疲れ果て、「つい子どもにイライラして怒ってしまう」「正直手をあげてしまうこともある」と打ち明け、どの人も「自分は毒親かもしれない」と悩んでいるのだとか。
では、愛すべき子どもに対して、なぜ毒親になってしまうのか、自分が毒親にならないためにはどうすればいいのでしょうか?井上氏の著書『毒親になりそうなとき読んでほしい本』より、そのヒントを連載でご紹介します。
今回は、毒親予備軍とも言える人の特徴についてです。
毒親的予備軍①「家事を完璧にやらないと気が済まない」
子どもに対して無自覚にやっていることが、結果的に毒親のふるまいになっている可能性があることは、この連載の最初にお伝えしました。
➤➤もしかしてあなたも毒親かも!子どもに対してこんなことしてない?…それ、虐待です!●家事を完璧にやらないと気がすまない●世間的によいとされることは、どんどんとり入れたい●子どもがどこで何をしているかを把握しておきたいこれらのふるまいをしている人は、毒親予備軍と言えます。一つひとつご説明していきましょう。
まず一つ目の「家事を完璧にやらないと気がすまない」人。これは毒親の一歩手前です。たとえば日常の料理も、冷凍食品を使ってはいけない、インスタント食品は出せない、絶対に手作りでなくてはダメと完璧主義に陥っている人は、いつかそれを育児にもあてはめて、子どもにも完璧を求めてしまいます。
たしかに育児は責任の重い仕事ですが、責任感が強すぎると完璧主義に陥ってしまいます。とにかく完璧主義の人は100点満点が基準です。
どこまで達していないのか、何が足りないのか、と物ごとを減点方式でしか見られないので、子どものできたところでなく、できていないところにしか目がいかなくなってしまいます。これもできていない、あれもできていない、と子どもを追い込むので、子どもはどんどん息苦しくなっていくのです。
特にこういう人は「ちゃんと子育てしなければならない」と、「ねばならない」思考にしばられているので、「正
しい子育てはこうである」という自分の信念に、子どもを押し込んでしまうのです。
本人からしたら、しつけであり、教育であるけれど、それはもう毒親がやっていることと同じなのです。毒親化すると、自分自身がこういう思考に陥って、子どもが苦しんでいることに、なかなか気づけません。
だからこそ、やはりどこかで立ち止まり、自分がそういうことをしていないか、子どもを追い詰めていないかと自問自答する時間が必要なのです。
毒親予備軍➁「世間的によいとされることは、どんどんとり入れたい」
子どもをよい学校に入れる、子どものルックスにこだわるなど、「世間的によいとされることは、どんどんとり入れたい」と考える人も、とても危険です。世間の評価=自分の評価ですから、わかりやすい見栄を張ってしまうのです。
これがどんどんエスカレートすると、子どもの意見や考えとは関係なく、世間的によいと思われる枠組みに子どもをどんどん押し込めていきます。こういう親は、背景に自分なりのコンプレックスを抱えている人が多いです。
たとえば学歴コンプレックスのある人は、いい学校に行かせようとしますし、体形にコンプレックスをもっている人は、ルックスにすごく力を入れます。
これは私の患者さんであるY子さんという女子大学生の話ですが、親がなにやらおかしいことに気づいたのは、本人が摂食障害で病院に来たのがきっかけでした。
私のところに初めて来たのが18歳のとき。身長が165㎝で体重が40㎏くらい。摂食障害自体は、昔からずっと治療されていて、中学生のときは35㎏を切る体重になったこともあり、たまに入院しながら、だましだましやってきたそうです。
話を聞いてみると、親が体形に厳しく、見た目をすごく気にする人でした。Y子さんは、もともと50㎏くらいありましたが、親に何度も「太りすぎ」と言われてからYさんは、どんどん食べられなくなって摂食障害になってしまったのです。
コンプレックスとは厄介なもので、そのせいで「子どもの幸せを願えない」親もいます。自分ができなかったことを子どもにやってほしいと思うけれど、それがゴールではなかったりします。
子どもが自分のコンプレックスをクリアしてしまうと、今度は自分のコンプレックスがよりきわ立つので、その事実に耐えられなくなるからです。それが明らかになったことで結果的に、ますます自分のコンプレックスが刺激されます。
もともと毒親の人たちは自分が満たされていないので、子どもが幸せになっていくと、どんどんおいていかれるような気持ちになります。だから結局、子どもにはいい大学に行くとか、きれいになるとか、そういう何か世間的にいいことはしてほしいけれど、幸せになることを素直に喜ぶことはできないのです。
毒親予備軍③「子どもがどこで何をしているかを把握しておきたい」
「子どもがどこで何をしているかを把握しておきたい」という親。これもコントロールにつながるので、エスカレートすると危ないです。
小学生であれば、ある程度、把握しておく必要がありますが、子どもが外で遊んでいる最中に、何回も電話をして確認するのは正しい距離感とはいえないでしょう。子どもを危険から守ってあげたいという気持ちゆえの行動でしょうが、それをすると子どもが精神的な自由度を失ってしまうのは明らかです。
子どもの部屋に無断で入る親御さんもいますが、それを平気でされると、子どもとしては、家どころか自分の部屋でも安心、安全の場所になりません。これがエスカレートすると、勝手に机の引き出しをあけたり、スマホを見たりし始めます。
こうなると完全に毒親です。子どもの部屋に入るときは、その理由を伝えて、子どもの許可を得てからにしましょう。毒親化を防ぐには、親子であってもその距離感を適切に保つことが大切なのです。
なぜそこまで親は子どもをコントロールしたくなるのでしょうか。
もともと人間には、快適に過ごしたいという欲求があり、そのために環境をととのえています。そこに他人がいて、本来その他人はコントロールできないけれど、できたらすごく楽だし、快適に過ごせます。
そういう意味でコントロールしたいという欲求がありますが、理性や社会的なルールでできないことを理解しています。ただ心の奥底に不安や生きづらさ、居心地の悪さがあると、その欲求が強くなってしまうのです。
ですから子育ても不安感が強い人ほど、子どもをコントロールしたくなるわけです。特に子育ては、世間の目やルールが親の期待をつくっているところもあるので、そのとおりにいかないとよけいに不安になります。そうすると子どものための子育てではなく、親のための子育てになってしまうのです。
しかし子どもであっても、他人をコントロールすることはできません。それなのに親は、どこかで子どもなんて経済力もないし、身体能力も生活力もなければ、なんとか思いどおりにできるんじゃないかと勘違いしている節があります。そういうちぐはぐさが毒親化を加速させるのではないかと懸念しています。
『子育てで毒親になりそうなとき読んでほしい本』
子育てというのは、大きな喜びをもたらしてくれる一方で、実にストレスフルなもの。誰もが毒親になる可能性を秘めています。
この本では、自分が毒親化していると気づいた人が呪縛から脱し、わが子に向き合い、自分らしく生きていくためのステップを、精神科医の井上智介氏がアドバイス!