精神科医で産業医の井上智介氏によれば、近ごろ増えているのが、幼児や小学生の子どもを育てるパパ&ママからの相談。
育児に疲れ果て、「つい子どもにイライラして怒ってしまう」「正直手をあげてしまうこともある」と打ち明け、どの人も「自分は毒親かもしれない」と悩んでいるのだとか。
では、愛すべき子どもに対して、なぜ毒親になってしまうのか、自分が毒親にならないためにはどうすればいいのでしょうか?
井上氏の著書『毒親になりそうなとき読んでほしい本』より、そのヒントを連載でご紹介します。
毒親って、そもそもどういう親?
子どもにイライラしてついどなってしまった、言うことを聞かないので、つい手が出そうになってしまった……子育て中なら経験がある人も多いでしょう。しかし、これがエスカレートすると「毒親」になる可能性があります。
毒親と聞くと、どのようなイメージを思い浮かべますか。言葉自体が毒々しいので、自分には関係ないと思いがちですが、実はそんなに激しいものでなくても毒親にあたります。
そもそも毒親とは、アメリカのスーザン・フォワードさんの著書『TOXIC PARENTS』を日本語に訳した言葉。フォワードさんは毒親を、子どもに対して悪い影響を与える親と定義しています。
具体的には、子どもの恐怖心や義務感、罪悪感を過剰に刺激し、子どもの考えや気持ちを無視し、自分の思いどおりにコントロールしようとする親のこと。自分の思う条件があって、それをクリアしないと愛さないよというのが、毒親の大きな一面です。
本来であれば、親から子への愛情は無条件であるもの。成績がいいから愛するよ、手がかからないようないい子でいてくれるから愛するよ、というものではありません。でもそういった条件つきでしか愛情を与えないのが、まさに毒親の大きな特徴です。
また大きなポイントは、多くの毒親が意識的にコントロールしてやろうと思ってやっているわけではないということ。無意識でやってしまっている。それどころか、よかれと思ってやっていることもあります。自覚がまったくないわけです。
もしかして、もう毒親になっているかも!
毒親の兆候は、以下のふるまいから見え始めます。
●家事を完璧にやらないと気がすまない●世間的によいとされることは、どんどんとり入れたい●子どもがどこで何をしているかを把握しておきたい思い当たる節のある人も、少なくないのではないでしょうか。そんな人は、実は毒親予備軍かもしれません。さしずめ「グレー親」「黒親」といったところでしょうか。
次からは、さらに毒親について、くわしく解説していきます
一番多い「子どもに恐怖心を与える」毒親
毒親の典型例は3つ。子どもの「恐怖心」や「罪悪感」、「義務感」を過剰に刺激するというものです。このうち子どもの恐怖心を刺激するというのは、いわゆる虐待とイコールと考えてよいでしょう。
虐待はニュースとしてとり上げられることが多いからか、レアケースのように思われますが、厚生労働省が発表した令和2年度の児童虐待の相談対応件数は20万件超。右肩上がりで増えています。しかもこの数字は氷山の一角とも言われているのです。
虐待は、大きく次の4つに分類されます。
①心理的虐待
②身体的虐待
③育児放棄(ネグレクト)
④性的虐待
①「心理的虐待」って?
4つのうち最も多いのがこの心理的虐待で、全体の6割を占めています。具体的には「おまえは何をやってもダメなやつだ」と大声で罵倒したり、「いい子にしていないとごはんはなし」と脅迫めいた言い方をしたりする、言葉で行う虐待です。
「こわい人に誘拐されたらよかったのに」「実はよそからもらってきた子なんだよ」といった冗談めいた言葉でも、子どもには真偽がわからず、ただただ恐怖です。
また大人になってからも残るのが「あんたなんか産まなきゃよかった」という言葉。このように、その子の存在を軽視するような発言や、無視することは、よくある心理的虐待です。
さらに「なんでお兄ちゃんみたいにできないの」「このままだとお姉ちゃんみたいになっちゃうよ」など、きょうだい間で比較することも心理的虐待で、意外にやってしまいがちなパターンです。
夫婦げんかが発展して、どちらかがDVを加えていたり、親が情緒不安定でリストカットしたりするところを見せられたりすることも、心理的虐待に含まれます。
➁「身体的虐待」って?
身体的虐待は、いわゆるなぐる、蹴るといった体に暴力や危害を与える行為です。全体の25%が、これにあたります。
なぐる、蹴るに始まり、熱湯をかけるなどの行為は、ニュースざたになるレベルですが、寒い時期に外に出す、物置に閉じ込めるなども含まれます。なぐる、蹴るでなくても、意外とあるので、それが虐待といわれてもピンとこない人も少なくないのではないでしょうか。
③「育児放棄」って?
育児放棄(ネグレクト)は、全体の15%くらいあります。食事を与えない、服を着がえさせないというケースが典型的ですが、子どもを家や車に残して出かけてしまう、子どもが病気やケガをしているのに病院に連れていかないのも、育児放棄の一つです。
病院に連れていくとなると、親からするとけっこうお金がかかるので、「がまんしなさい」「寝ていれば治る」と子どもの病気を軽く見て、連れていかないことがあるのです。実際何もなかったとしても、子どもからすれば「痛いのに親は何もしてくれなかった」というつらい思いだけが残ります。
また最近、話題になりつつあるのが、親がスマートフォンを見すぎていること。親がずっとゲームをしていたり、SNSに夢中になっていたりして、子どもの気持ちや親に求めるものを無視している。親がスマホにかまけすぎて、子どもをまったくかまっていないこのケースは、ネグレクトの前段階といわれています。
④「性的虐待」って?
親が子どもに性的なことを強要したり、子どもに性行為をしたりするものです。非常にショッキングなことですが、全体の約1%といわれています。
割合としては少ないですが、子どもから言い出しにくいのはもちろん、子どもの年齢が低いと、そもそもそれが虐待であることに気づいていないこともあるので、本当は1%どころではなく、もっと件数は多いだろうといわれています。
実は子どもが嫌がっているのに、おふろにいっしょに入ることを強要したり、親がおふろ上がりに裸でうろちょろしたりというのも、性的虐待に近い行為なのです。
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「虐待」と聞くと、自分には関係ないことと思いがちですが、スマホにかまけて子どもにかまっていなかったり、きょうだい間で比べたり、ということは意外にあるのではないでしょうか。
大人になったいま、子ども時代をふり返ってみると、実は親からされていたことが虐待だったと気づく人も多いですね。
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それって本当に子どものため⁉「教育熱心な親」の仮面をかぶった”毒親”とは?
『子育てで毒親になりそうなとき読んでほしい本』
子育てというのは、大きな喜びをもたらしてくれる一方で、実にストレスフルなもの。誰もが毒親になる可能性を秘めています。
この本では、自分が毒親化していると気づいた人が呪縛から脱し、わが子に向き合い、自分らしく生きていくためのステップを、精神科医の井上智介氏がアドバイス!