前の話を読む▶▶▶娘が同性と付き合っているって事実、許してくれる?親へのカミングアウトREYAN編『虹色の未来』#7先に親にカミングアウトをしたのは、れいちゃんでした。反対されて2人の関係がギクシャクしたらどうしようと不安だったのに、お母さんが理解して応援してくれると聞いたときは、本当に嬉しかった。
また、彼女とお母さんは女友達みたいにすごく仲が良くて、一緒に遊びに行ったり映画を見に行ったり、見ていて羨ましかった。お母さんのパワフルさや、包み込んでくれる包容力、困っている人のために損得考えずに体を張るような優しさは、全部れいちゃんに受け継がれていると思いました。
れいちゃんのカミングアウトがうまくいっても私はまだ伝える体制というか、心の準備がなかなか出来なかったんです。そして、うちの親がどんな反応をするのか、考えただけですごく怖くて言い出せなかった。
私は母に、れいちゃんのところみたいにわかってもらえるだろうか。もし、昔謹慎をくらったときみたいに「ゆう、また裏切った」なんて悲しませてしまったら、どうしよう……。
でも、いつまでも優柔不断のままでは彼女に申し訳ないし、どこにも進めない。迷いに迷って、れいちゃんがカミングアウトしてから半年が過ぎたころ、ようやく母に伝えようと決心したんです。
れいちゃんは、すごく私の株を上げるいい話をたくさんしてくれたけど、そんなことないんですよね。私、彼女と付き合うまでは普通にクズでした。だらしなくてテキトーなところがあって……。れいちゃんと付き合ってから、私はすごく変わったんですよ。
たとえばお金の管理ですが、前はあるだけなにも考えずにパーっと使っちゃって、給料日前には1円もなくて、お米だけ何日も食べるとか、普通にありました。洋服やお酒、人付き合いに美味しい食事、お金はいくら稼いでも残せなかった。
でも今は生活費の管理をれいちゃんがしてくれて、わずかだけど貯金も毎月してくれる。彼女と一緒に住んでから、電気やガスが止まることはなくなりました。れいちゃんのおかげで、やっと東京で人間の生活ができてます。
一緒に貯金を頑張ったから2人で車も買えたし、本当に彼女は頼もしくて頭がいい。将来のビジョンを描けるんですよね、れいちゃんといると。どんなことがあっても2人ならなんでも乗り越えていけるって思えるんですよ。
実は私、就職してから実家と接点を持つことを避けてました。レズビアンであることをごまかすために、いちいち嘘をつかなくてはならないのが苦しかったからです。
「ゆう、誰かいい人はおらんが?」
「結婚せんが?」
「もし彼氏できたら連れておいでね。お母さん、そのときは彼氏の好きなものいっぱい作ってあげるから!」
母のことは大好きだけど、こんな言葉に毎回嘘の答えをさがすのが、とても重たくてしんどくなったんです。離れていれば本当のことはわからない。このまま適当な距離を保っていよう、そう思いました。
だけど、れいちゃんはとても家族を大事にしていて、母の日や敬老の日、誕生日には手紙を書いてみんなにプレゼントやお花を贈るんです。れいちゃんのお母さんからはクリスマスに絵本やカードが届いて、彼女はすごく喜んでいた。
私には思いつきもしなかったけど、そうやって家族を大切にすることはすごく素晴らしいと思えた。だから私もその習慣をおそるおそる真似してみたんです。まず母の日に、観葉植物を送ってみました。
「いやあ、どうしたの、ゆう!こんなことしてくれるん、はじめてやね!お母さんびっくりしたわ!ありがとう!」
それからも、手紙を書いたり、祖母にプレゼントを贈ったり、ガラにもないことをしてるな、と照れながら家族に喜んでもらえることはすごく気持ちいいって気づいたんです。
実家からは大量のお米が届きました。れいちゃんのおかげで、距離を置いていた私の家族があたたかいものだと思い出せました。
「ゆう、なんか最近えらい優しいね~。どうしたん?なんかお母さんにしてほしいことあるが?」
だんだん、母に隠し事をしていることがつらくなりました。わかってくれないかもしれないけど母にだけは本当のことを伝えようと覚悟を決めて、帰省のタイミングでLINEを送りました。
【お母さん、今回帰省したとき、2人だけで話したい事があるから】
【えー、なになに?改まっちゃって!なんだろう、あはは!】
カミングアウトされてもあはは!と笑ってくれるか……一抹の不安を抱えながら開けた実家のドアがやたらと重く感じられました。ですが、リビングに入ったとたん、母からこう切り出されたんです。
「ねぇ、お母さん当ててあげようか?ゆう、女の子と付き合っとるやろ。女の子のこと好きなんやよね?」
私は唖然としました。ちょっと待って、なんでわかるんだろう。
「……なんでそう思うの?」
「うふふ、わかるにきまってるよ~!前にお父さんと一緒に東京のゆうの家にいったことがあったやろ。そんときに気づいたんよ。あらー、なんかおかしいなーって。雰囲気っていうの?それを読み取ったんよ。身なりや髪型なんかもね、男の子と付き合ってる感じ、全然せんかったもん」
……雰囲気を読み取った?“くノ一”なのかお母さん。私は気圧されて頷くことしかできませんでした。
「それにな、前に彼女と富山に来たことあったやろ?そんとき、実家寄らずにホテル泊まるとか言ってなかったっけ?そんとき、もう、あれ~?これひょっとして……って気づいとったんよねーうふふ、すごいやろ」
母は、全部私のことをわかっていました。しかも、ずっと昔から。ちなみに富山のホテルに旅行したのはずいぶん前に付き合った初めての彼女です。驚きとともにホッとしました。これからはもう、なにも隠さなくていい、嘘をつかなくていいんだ。
れいちゃんにこの喜びを早く伝えたい。彼女は共感力が高い人だから、きっと自分の事のように喜んでくれるだろう。
東京へ帰る列車に飛び乗ってからスマホをひらくと、ちょうど母からLINEが届きました。
【なにがあっても自分に正直に生きないと後悔するよ。犯罪だけしなければ、あとはなんでも受け入れるから!あはは!元気で頑張って。ゆうはそのままでいい。自信を持って生きてってほしいわ。お母さんはどこまでも味方やよ】
私は帰りの電車でわんわん泣きました。お母さんって、本当にすごい人だ……。
【れいちゃん、私もお母さんに伝えたよ。お母さん、味方だよって言ってくれたよ!】
すぐにれいちゃんにLINEを送ると、泣き顔のスタンプがいくつもいくつも送られてきました。きっと今れいちゃんも、こんなふうに泣いて喜んでくれてるに違いない。
そして帰省からしばらく経ったころ、母から電話がありました。
「そういえば、お母さん、みんなに言っといたよ~!ゆう、女の子と付き合っとるんやって」
「え……?なんで言うの!?」
「そんなん、ゆうが女の子と付き合っていること、そもそも私が当てたんやから、私が家族に言ってもいいやろ?あら、もしかして、だめやった?言わんほうがよかった?」
「……だめじゃない。まぁ……そうだね。うーん……いっか」
「それでね、お父さんは、目剥いてビックリしとったわー!あはははは!兄ちゃんはなんて言ってたと思う? へぇ、やって、つまらんねぇ、もっと面白いこと言えんがかねぇ?ま、あの子は人にあまり深入りせんからねぇ。それでね、兄ちゃんの嫁は、友達にもおるみたいで、ゆうちゃんもそうなんやねぇって、ニコニコしよったわ!さすがあの子は留学しとっただけあるねぇ!頭が文明開花しとる!あはは、おもしろ。それでね」
「ま、待って、まだあるの!?」
「あるよ~?甥っ子は、やっぱりあの子は利口やよ。男同士で付き合っているのと一緒だよね、いまどき珍しくないよって納得しとったみたいやわ!今の子はホントになんでも知っとるね!あはは!!それで、彼女とはいつ会わせてくれるん?」
参りました、降参です。コントみたいだけど、事実です。母は、どこまでも底抜けに陽気な人でした。そして、いまの私はすごく信頼されて、愛されているんだと思えました。私の重荷を全部おろしてくれた母、改めて母の偉大さを知りました。その懐の深さを見習いたい。
その後、関西で次兄の結婚式がとりおこなわれました。結婚式のために帰省する私に、母がこう言ってくれたのです。
「せっかくこっち来るんやったら、お母さんホテル取ろうか?れいちゃんも連れてきたら?それで式前にでも、ちょっとだけでも会わせてよ。終わったら2人でユニバでも行ったら?」
母の好意に甘えることにしました。そしてそのホテルの部屋でれいちゃんは初めて母と兄嫁、甥っ子に会うことになったのです。
れいちゃんはすごく緊張していました。でもすごくその日のれいちゃんはしっかりとしたお姉さんみたいでみんなにハキハキ挨拶して、本当、私の好きになった人すごいなって思いました。誇らしかったです。
なのに母はその日ひどい風邪をひいていたんです。
「こんにちはぁ、ゲホ。はじめまして。綺麗な子やね。いつもゆうがお世話になってます。ゲホゲホ。
いやぁ、ごめんね、お母さん風邪ひいて咳が止まらんくてー、こんな大切な日にゲホッ、うつしたら困るから、あんたら、あんま近くに寄らんといて、ゴホッ」
会う前まで富山弁に慣れてなくて、母が怖い人だったらどうしよう、とか心配していたれいちゃんも、「面白くて優しいお母さんだね、それにすっごく綺麗な人だね」と笑ってくれました。
ふとみると、れいちゃんと兄嫁、そして甥っ子が楽しそうに話し込んでいました。れいちゃんとうちの家族が仲良く打ち解けているのを見て、私はすっかり安心しました。こんな素敵な家族がいて、私って本当に幸せだな、と涙が出ましたが、恥ずかしいのであくびをしたふりをしてごまかしました。
「れいちゃん、今度は実家に遊びに来てね、ゲホ。みんなに会わせるから!れいちゃん食べ物なにが好き?こっちはすっごい魚が美味しいんよ!ゴホッ」
「あ……ありがとうございます。私、たらこパスタが好きです!」
「たらこパスタやね?山盛り作ってあげるね、楽しみに待っとるよ!ゲホゲホ」
私の家族へのカミングアウトは、稀な成功例だと思います。これで私は勢いがつきました。