「うちの子は平凡でこれといった取り柄が見つからない」「大きな問題はないけれど、なんとなく子どもの将来が不安」。そんな悩みを持つ親御さんは多いようです。
慶應義塾大学医学部小児科主任教授で『小児科医のぼくが伝えたい 最高の子育て』などの著書がある高橋孝雄先生が、そんな親御さんたちの悩みにアドバイス。2回連載でお届けします。
【お悩み】子どものいいところを見つけられない!
幼稚園のお遊戯会ではいつも「村人その1」のような役ばかり。かけっこも遅く、物事の飲み込みも遅く、友達が多いわけでもありません。子どものいいところを見つけたくても、欠点ばかりが目についてしまいます(5歳・女の子のママ)_______
まず最初に皆さんにお伝えしたいのは、ぼくは幼児教育や子育ての専門家ではないということです。小児科医として長年、たくさんの子どもたちやそのご家族と接してきた経験から、お話をさせていただこうと思います。
劇で主役の子が将来リーダーになるとは限らない
わが子が「村人その1」だと嘆くお母さん。主役として華々しくスポットライトが当たるよその子がうらやましく感じてしまうのかもしれませんね。気持ちはわかりますが、幼稚園の段階でも、役回りに差はあるものです。
王子様やお姫様、村長さんがいる一方で、村人その1、その2、その3もいて、劇が成り立っている。お子さんは「村人その1」に向いているから選ばれたと思えばいいのではないでしょうか。そして、それはお子さんが劣っているわけでも、平凡なわけでも決してないとぼくは思います。
劇で主役を演じるような子が、将来、リーダーシップを発揮する仕事に必ずしも就くわけではないですよね。この頃のお遊戯会は子どもたちにとってはいい思い出になればそれでいいわけです。参加することに意味がある。
運動会と同じですね。かけっこが遅かろうが速かろうが、昼休みのお弁当時間には徒競走の順位などすっかり忘れて、1位の子もビリの子も一緒に笑い合っているのではありませんか。
泣いてしまってかけっこのスタートラインに立てない子もたくさんいます。小児科医をしていると、病気で運動会を見学せざるをえない子もたくさん見てきました。
妊娠中に「元気に生まれてきてくれればそれだけでいい」と願った自分を思い出してみませんか。元気に育って、ちゃんとお遊戯会にも運動会にも参加できているんです。
発想の転換で子どもの将来が楽しみに
もしかすると、娘さんは子どものころの自分に似ているのではありませんか。「うちの子、私と同じ道を歩んでいる」ともどかしく思っているのかもしれませんね。自分と同じ弱点、欠点を持っていると感じると、どうしてもそこばかりに目が向くものです。
子どもはお父さんとお母さんの遺伝子を半分ずつ受け継いでいますから、性格や能力がある程度似るのは当たり前です。特に同性の親子が似ることには大きな意味があるんですよ。
お互いに共感できるところが多いからこそ、子どもは安心してすくすく育つんです。娘は「お母さんのような女性になりたい」、息子は「お父さんのように生きたい」と感じることが、とても大切です。
お母さんが気にされているお子さんの様々な欠点(ではないのですが)に関しても、村人その1しかやれない子ではなく、村人が向いている子。かけっこが遅い子ではなく、勝てないことは分かっていても、それでもスタートラインに立てる子。物事の飲み込みが遅い子ではなく、他人の言うことを鵜呑みにしない子。たくさんの友達がいない子ではなく、少ないけど大切な友達がいる子。
そう考えてあげれば、お子さんの将来がとても楽しみになりませんか。
高橋孝雄 慶應義塾大学医学部小児科主任教授。医学博士。専門は小児科一般と小児神経。1957年生まれ。1988年から米国マサチューセッツ総合病院小児神経科に勤務、ハーバード大学医学部の神経学講師も務める。94年に帰国、慶應義塾大学病院小児科で医師・教授として活動。日本小児科学会前会長。著書に『小児科医のぼくが伝えたい 最高の子育て』『子どものチカラを信じましょう』(ともにマガジンハウス)。
撮影/柴田和宣 取材・文/金澤友絵
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