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2023.01.22

メンタルケア

「わが子が怖い!」毒親に育てられたシングルマザーが子どもの名前を呼べるようになるまでの話

精神科医で産業医の井上智介氏によれば、近ごろ増えているのが、幼児や小学生の子どもを育てるパパ&ママからの相談。

育児に疲れ果て、「つい子どもにイライラして怒ってしまう」「正直手をあげてしまうこともある」と打ち明け、どの人も「自分は毒親かもしれない」と悩んでいるのだとか。
 
では、愛すべき子どもに対して、なぜ毒親になってしまうのか、自分が毒親にならないためにはどうすればいいのでしょうか?井上氏の著書『毒親になりそうなとき読んでほしい本』より、そのヒントを連載でご紹介します。

前回は、毒親になりやすい3つのパターンと、そこから脱出する方法についてお伝えしました。

➤➤こんなときがキケン!毒親化しやすい状況って?陥りがちな3つの状況と脱出法

今回は、「自分は毒親かもしれない」と井上氏のもとを訪れたシングルマザーのお話です。

子どもと部屋にいると苦しい

私のところには、子育てに自信がない、自分は毒親かもしれないと不安を抱えている人が数多く相談に見えます。過去の患者さんで印象に残っているのが、M子さんという30歳前後の女性。4歳の娘さんをもつシングルマザーでした。

自分が精神的に不安定で子どもを虐待しそうと病院に見えたのが最初でした。イライラしてどなったり、しつこくしかったり、正直、手を出してしまったこともあると。行政の子育て支援課に相談したところ、精神科の受診をすすめられ、私のところにいらしたという経緯でした。

M子さんの話を聞いていると、彼女自身も親から虐待を受けていたことがわかりました。たぶん、行政もそれがわかったから受診をすすめたのかなと感じました。

とにかくM子さんも含めて、そういう人は親から愛されたことがないので、子どもの受け止め方がわからないのです。子どもは、純度100%の無条件の愛で、お母さんに向かってきます。素直に受け止めればいいけれど、どうすればいいかわからないから、子どもがとてもこわい相手に思えます。

もともと人を信用しきれていないので、自分の子どもであっても、何か企んでいるんじゃないかと、ちょっとうがった見方をしてしまうわけです。子どもが小さくて意思疎通ができないので、なおさら子どもの心がわからず、恐怖心がつのっているようでした。

M子さんは子どもといっしょに部屋にいると、どうしようもなく不安になって、すごく気まずいと言います。それでも子どもは親を求めてくるけれど、それも理解できないし、何か落ち着かないというところで不安定になって、ちょっとしたことでイライラしてしまっていました。

しかしM子さん自身、過去に親から同じようなことをされた経験があったので、このままではマズいとみずからSOSを出されたのです。小さなわが子にあたる自分に、強い嫌悪感をもっていらしたのが印象的でした。

まわりを見渡すと、同じ年代の親子は、みんなキャピキャピ楽しそうにやっているのに、自分だけこんなふうになってて……、とご自分をとても卑下されていました。

うまく子育てできないのは自分のせい?

M子さんは夜も眠れない、拒食と過食を繰り返す、子育てばかりでずっと家にいるのがこわい、と精神的に調子が悪く、子どもが生まれるまでは楽しめていた趣味も楽しむ余裕がないと話します。

うつ病の診断基準にあてはまっていたので、まず病院では、うつ病の治療を始めました。そして、これ以外に病院のカウンセリング、保健センター、子育て支援のNPOにも介入してもらい、どんどん間口を広げていきました。

やはりM子さんにとって重要だったのが、カウンセリングでした。そのなかでも大きなポイントになったのが、親子の心理的なつながりを実感してもらうワーク。

4歳というまだ幼い時期は、親との精神的なつながりが不可欠です。それがM子さんの場合、M子さんから拒絶して切れかかっていましたから、ここをしっかりとつなぎ止めることがワークの一番の要になってくるところでした。

その子どもとのワークに本格的に入る前段階としてやってもらったのが、自分の親との関係の受け入れです。つまり自分を虐待していた親が、ちょっとおかしな人だったということを、しっかりと受け入れてもらうことを行いました。

M子さんは非常に強い自己嫌悪を抱いていましたが、自分がそうなっているのは自分のせいではない、何か自分に自信がもてないことも自分のせいではない、それをわかってもらうために、まず親がある意味、ふつうではないという親の生態を認識してもらうことからワークはスタートしました。

自分の親には病気があったのかも

M子さんはお母さんに自分の気持ちを受け入れてもらったこともないし、理解してもらったこともありません。料理も毎回、主菜や副菜などのバランスも関係なく出てきたり、掃除ができていなくて部屋はすごい散らかりようだったりしたと言います。お父さんはいらっしゃらなかったようです。

話を聞いて、おそらくM子さんのお母さんは、発達障害なり軽い知的障害なりがあったのではないかと思われました。だから、これはお母さんの病気が原因で、子どもの気持ちを考えるのも苦手だったし、料理や掃除もできなかったんだということを、M子さんにまずわかってもらいました。

そのうえでM子さんが自分に自信をもてずに、うまく子育てできないのは、自分のせいじゃなくて、運悪くそういうところに育ってしまったからということを、少しずつ受け入れてもらっていきました。

誰にとっても、ここがいちばん時間のかかるところですが、M子さんも例外ではありませんでした。親は悪いところもあるけれど、いいところもあるという考えから抜け出すのに時間がかかりました。何よりも「親をきらってはいけない」「親は大事にするものだ」という世間の風潮にしばられているところがありました。

M子さんとしては、親がある意味おかしいのはわかるし、きらいだけど、でも親だし、そこを切り離して、いまの自分の精神的な不安定さが、親のせいと言われても……。

自分は自信がなくて悲観的になって、自分の子どもをたたいてしまう人間なのに、それが全部親のせいですよ、といきなり言われても受け入れられないという感じで、すごく葛藤されていました。

やられて嫌なことを親がするのはおかしい

その突破口となったのは、やはり「自分がやられて嫌なことを親がやっていたのはおかしなこと」というあたりまえの事実に気づいたことです。

そもそもM子さん自身、自分がやられて嫌だったことを子どもにやってしまって、そんな自分が嫌だと思って病院に来たわけですから、そこはやっぱりおかしいと気づけました。

やられて嫌なことを平気でやるのは、親のやることじゃないと認識できたことが、わかりやすい突破口だったようです。そこから、ようやく次のステップに進めることになりました。

M子さんに限らず、このような人はもともとまじめな人が多いので、自分のダメさを誰かのせいにする、ましてや親のせいにすることが、とても苦手なのです。だからこそ、そこを受け入れるのにも時間がかかります。

M子さんもそうでしたが、近くに親がいて、かかわりがあるなら、最後はやはり逃げないといけません。どんどん距離をとっていかないといけないのに、最初の受け入れがしっかりできていないと、中途半端に終わってしまいます。

結局、親だからいっしょにいてあげなきゃいけないといって逃げられないまま、本人はずっと苦しんだままで何も解決しないのです。なので、まず「親のせいである」ことを受け入れる。その最初の一手というのは、本当に大事なことなのです。

同時に「親が悪くて自分は悪くない」とつなげていくには、過去のトラウマと向き合わないといけません。M子さんにとっても非常につらい作業になったと思います。

子どもの名前をちゃんと呼ぶ

カウンセリングでは、親からどんなことをされて、どんな恐怖を感じたかを、一つ一つていねいに聞いていきます。

M子さんの場合、小さいころに真っ暗な物置に入れられて、すごくこわかったとか、学校でいじめられて親に相談したのに助けてくれるそぶりもまったくなかったとか、そのようなつらいエピソードを話してもらいながら、心の傷が見えるようにしました。

また、その傷が親だけではなく、人とのつながりを拒絶するようになっていたことも理解してもらいました。そのうえで人とのつながりはいいものだとわかってもらう。M子さんの場合、子育てを通じて、そのよさを感じてもらえるようにしていくことにしました。

その第一歩としてやってもらったのは「子どもの名前を呼ぶ」ことです。M子さんは、わが子に恐怖を感じていたので、距離をとりたい、あまり近づいてほしくないという気持ちがあり、子どもの名前を呼ぶことに強い抵抗感がありました。

しかし、これからはしっかりと名前を呼んで、その呼びかけに対して、子どもがこっちを向いて反応することで、つながっている感覚をもってもらうようにしました。

子どもにも「ママ」と呼ばせる

一方、子どもにも、しっかり「ママ」と呼ばせるようにしました。M子さんは、ママと呼ばれることに非常に違和感を抱えていましたが、とにかく子どもにはママと呼ばせて、つながりを実感してもらうことにしました。

また、M子さん自身は、自分のお母さんのことを「あの人」と呼んでいました。「あの人はああだから」と、とても距離をとった話し方をしていました。それだけ理想のあたたかい母親像と、実際の母親はかけ離れていたので、とても「お母さん」とは呼べなかったのです。

そしてまた、自分も子どもにとってあたたかい母親になれていないから、ママと呼ばれることがとても苦痛。それで、できるだけ呼ばせないようにしていたわけです。

しかし、子どもにはママと呼ばせて、子どもと過ごす時間を増やして、愛着をしっかり育てていきましょうとお話しました。そこで耐えられなくなったり、不安になったりしたときには、薬を使っていきましょうということになりました。

一時的にイライラしたときは、トイレに駆け込んで距離をとったり、鏡を見たり、手や顔を洗ったりしてクールダウンする方法も組み合わせて乗り越えていくこともアドバイスしました。

M子さんはそんなふうに、自分自身も精神的に安定できる方法を見つけながら、子どもと少しずつつながりをつくっていきました。そのうち、子どもの名前を呼んだり、ママと呼ばれたりすることに抵抗がなくなっていき、子どもといっしょに過ごす時間も、多少の緊張感はあっても、最初のころのような嫌な感じではなくなってきたようでした。

子どもをどんどん受け入れるようになったのが、M子さんの一番の大きな変化でしたね。M子さんは「自分がやられて嫌なことはしない」ということを強く意識されていましたので、子どもをたたきそう、虐待しそうという衝動は、かなりなくなっていきました。時間をかけながらも、感情のコントロールもうまくできるようになっていったわけです。

再婚と引っ越しが親と離れるきっかけに

お子さんの様子も、ずいぶん変わりました。最初に来たときは4歳なのに、元気がなくて物静か。無表情で子どもらしくないという印象でした。いま思うと、お母さんが何をしでかすかわからないから、おびえていたのかもしれません。

カウンセリングを通じて、お母さんにどんどん受け入れてもらえるようになってからは、お子さんに子どもらしさやほがらかさというのが見えてきました。ときおり、M子さんに対して甘えた表情を見せていたのもよかったなと感じました。

最初のカウンセリングは途中の中断もあり、1年半くらいかけて、16回のプログラムに沿って行いました。そのあとは「最近どうですか」という感じで、思いを吐き出すことを目的に通院してもらい、その期間はトータルで約3年以上になっていました。

終了のきっかけは、M子さんの再婚とそれに伴う県外への引っ越しでした。自分の親との関係は100%でないにしろ、かなり現実的なつきあいができるようになっていました。

私は最初から親がおかしいよと言いつづけていたので、M子さん自身、あまりかかわっちゃいけないんだなというのは、ある程度、理解しながらも、やはり近くに住んでいたので、かかわりをゼロにすることは、なかなかできませんでした。

かかわってしまうと、子育てにもいろいろ口出ししてきます。M子さん自身も、自分がやられたことを孫にもやるんじゃないかという恐怖心をもっていたので、私はとにかく距離をとることをすすめていました。

それが最後は再婚、引っ越しというパターンで、すべてがクリアになりました。引っ越すことで親と物理的な距離をとることができたのは、非常によかったなと私は思っています。

こんなふうにM子さんのように、自分で気づいてSOSを出せる人は、いいストーリーになることが多いです。M子さん自身が、もともと自分で気づいてSOSを出せる強さをもっていたからですが、なかなかそこに気づかない人も少なくありません。

しかし、いつも自分の心身の状態には敏感になって、ちょっとおかしいなと思ったら放置せず、病院の扉をノックしてほしいなと思ってます。

『子育てで毒親になりそうなとき読んでほしい本』

子育てというのは、大きな喜びをもたらしてくれる一方で、実にストレスフルなもの。誰もが毒親になる可能性を秘めています。

この本では、自分が毒親化していると気づいた人が呪縛から脱し、わが子に向き合い、自分らしく生きていくためのステップを、精神科医の井上智介氏がアドバイス!

Baby-mo〈ベビモ〉編集部

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