妊娠・出産前後に必須とされている栄養素に葉酸がありますが、実は“オメガ3”も同じくらい重要な栄養素であることが日本ではまだ広く知られていません。
体内で作ることができないため食事から必ず摂る必要がある必須脂肪酸であるオメガ3は、魚介類やアマニ油・えごま油などに多く含まれています。
胎盤を通じて赤ちゃんにオメガ3が行きわたることで、赤ちゃんの脳や心の発達に良い影響をもたらすだけではなく、細胞の働きをよくして丈夫にする働きや炎症を鎮める作用があることから、流産・早産の予防にも役立つことが研究でわかっています。
前回、“妊活”にオメガ3が必須であることをうかがった日本脂質栄養学会 理事長でオメガ3系脂肪酸に関する脳機能研究の第一人者である麻布大学 生命・環境科学部の守口 徹先生に、妊娠中の女性にとっても、オメガ3の摂取がいかに大事なのかを教えていただきました。
胎盤を通じて赤ちゃんの健全な成長を育むオメガ3
「受精卵が順調に育つプロセスでは、数えられないほどの細胞分裂を繰り返します。お母さんのお腹の中で赤ちゃんが健全に成長していくためには、各細胞を覆っている“細胞膜が丈夫に育つこと”が重要です。
オメガ3は細胞膜の材料となり細胞膜を柔らかくすることで栄養の取り込みをスムーズにしてくれます。どんなに良いものを食べていても、細胞膜の働きが良くなければ、胎盤を通じて赤ちゃんに栄養を十分に送ってあげることが出来なくなってしまうのです。
油(脂質)には大きく分けて4種類ありますが、細胞の働きに大きく影響するのがオメガ3とオメガ6の油で、理想的な脂肪酸の摂取バランスは、オメガ3が1、オメガ6が2~4程度と言われています。
オメガ3、オメガ6共にそれぞれの役割があるため、体の機能を本来あるべきパフォーマンスに整えるには “油の摂取バランス”がとても大切です」
※オメガ3脂肪酸(オメガ3)➔アマニ油やえごま油に含まれる有効成分・α-リノレン酸は、体内に取り込まれると、一部がEPA➔DHAの順に変換される。※EPA:オメガ3の一種。血液サラサラ効果と抗炎症効果が期待できる。※DHA: オメガ3の一種。α-リノレン酸、EPAなどから変化した脂肪酸で、主に脳や網膜に蓄積し、脳機能、視覚機能を維持・改善する。頭が良くなる油として知られている。
流産・早産を防いでくれるオメガ3
「日本では早産が出産全体の約5%で発生、年々増加傾向にあります。早産は新生児死亡の75%、重篤な神経障害発症の50%の原因となっており、早産のリスクを下げることはとても大切です。
早産のリスク要因はさまざまですが、ハーバード大学とデンマークの研究機関の共同研究チームは、妊娠中のオメガ3不足が早産のリスク要因になることを明らかにしました。
自然早産の原因の多くに細胞の炎症があると考えられており、抗炎症作用のあるオメガ3が体内に常にある状態を維持することができれば、炎症を初期段階で鎮められる可能性が高くなるのです。
早産だけでなく、流産を予防する働きがオメガ3にあることもわかってきました。」
オメガ3は赤ちゃんの脳の発達をアップさせる
オメガ3不足の母体から生まれた赤ちゃんの脳機能への影響も、研究で明らかになりつつありますと、守口先生。
「脳は体の中でもオメガ3が一番多い臓器で、有形成分の約65%が脂質=油から出来ています。 オメガ3は、脳の神経細胞やシナプスの柔軟性を上げて、記憶力や思考力を高めるなど、脳の機能を改善する働きがあります」
「赤ちゃんの脳は、お母さんのお腹の中にいる妊娠後期から急速に発達するため、この時期、赤ちゃんは脳に必要な油をどんどん欲しがります。この時期にきちんとオメガ3の油が摂れているかどうかは、生まれてからの知能指数(IQ)・メンタル(EQ)に大きな影響を及ぼします。
そのため、オメガ3のDHA(体内に蓄積されているオメガ3)が足りていないと、脳で情報を伝え受け取る物質であるシナプスの細胞膜が硬くなってしまい、認知機能の低下、理解力や判断力の低下につながります。運動機能を司る小脳にもオメガ3は多く使われることがわかっています。
また、オメガ3が足りていない場合、脳は他の油でそのスペースを埋めるしかなくなります。DHAで埋まっておくべき場所に他の油が一度入ってしまうと、なかなか入れ替わることが難しくなります。赤ちゃんの脳が育つ時期に、タイミングよくDHAできちんと埋めてあげることで、脳は一番良い状態で発達していくわけです。
オメガ3の油を妊娠中に摂れているかは、脳だけでなく、アレルギー性疾患の発生率を低下させる可能性があるという報告も出てきています」
オメガ3は、妊娠中の女性に起こるちょっとした不調・マイナートラブルにも有効です。血流や新陳代謝をよくしてくれるので、便秘・皮膚トラブル・こむら返り・動悸などの症状を和らげる効果や、血中の脂質濃度を下げる働きによりママの血圧上昇を抑える効果も期待されています。
赤ちゃんのためママ自身のためにも、水銀の心配が低いとされるアジ・イワシ・サバなどの小型の魚を食べられない日は、小さじ一杯のアマニ油・えごま油を毎日コツコツ、積極的に摂るように心がけていきましょう。
ただしオメガ3の油は、酸化しやすく熱に弱いため、1ヶ月程度で使い切ることを目標に、また、くれぐれも加熱調理には使わずに、サラダ他のお料理にかけて使う習慣をつけることをおススメします」
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監修者:守口 徹先生麻布大学 生命・環境科学部 食品生命科学科 食品栄養学研究室 教授。横浜市立大学卒 国立がんセンター研究所、東京大学 薬学部に研究出向の後、同大学で博士号を取得。 米国国立衛生研究所(NIH)で脂肪酸と脳機能に関して研究。 2008年より現職。 日本脂質栄養学会 理事長。気分障害を中心としたオメガ3系脂肪酸に関する脳機能研究の第一人者。取材・文/オメガさと子