妊娠中に「鉄欠乏性貧血」と診断されたことがある人もいるかもしれませんが、実は「生後9~10ヶ月児の4~5人に1人は貧血」というデータがあります。鉄は、脳の神経伝達物質の材料になる重要な栄養素。不足したまま育つことで、発達に悪影響を及ぼす可能性が。小児科医で、赤ちゃんの食事や、栄養とメンタル障害の関係などに詳しい今西康次先生に聞きました。
赤ちゃんはママのおなかで鉄を貯蔵して生まれてくる
「赤ちゃんの貧血」と聞くと、少し意外に思われるかもしれません。それは、赤ちゃんの貧血が珍しいからではなく、赤ちゃんの貧血検査を実施している自治体が少ないから。
そんななか、沖縄県は、乳児期の貧血検査を実施している数少ない自治体の一つです。
下のグラフは、乳児期後期健診(主に生後9~10ヶ月ごろに実施)の血液検査の結果をグラフにしたもの。生後9~10ヶ月の赤ちゃんの2割に貧血(鉄欠乏性貧血)が見られることがわかります。
さらに貧血にまで至らない「鉄欠乏」も、かなりの数いると考えられます。
乳児期後半で貧血率は20%を超える。卒乳の時期になると貧血の子は減っていくが、貧血にまで至らない「鉄欠乏」の子の数までは調べきれていない。貧血は鉄欠乏の最終段階であり、鉄欠乏だけでも発達障害など脳のトラブルの原因になると推測されている。
出典:沖縄県小児保健協会データより作成
赤ちゃんの鉄不足に陥る原因は
赤ちゃんは胎児期にお母さんからたっぷりの鉄をもらい、それを体内に貯蔵して生まれてきます。
鉄は血液中で酸素を運ぶなど重要な役割を担うので、鉄不足にならないように体内に貯金しておくのです。この鉄貯金を「フェリチン」といいます。
フェリチンを減らさないためには、食事で鉄を補う必要がありますが、実は母乳にはほとんど鉄が含まれません。
しかし赤ちゃんの体は日々成長して血液量も増えているので、鉄の使用量も増えていきます。
離乳食で鉄が十分に補われなければ、生後半年でフェリチンは空っぽになり、貧血になってしまうのです。
鉄不足は脳の栄養不足。心や知能の発達にも影響が
赤ちゃん時代に鉄が十分に補われず、貧血になってしまうのは大問題です。
なぜかというと、鉄は脳の発達に必要不可欠な栄養素だからです。
小児科学のバイブルともいわれている「ネルソン小児科学」にも「子供の体、心、そして知能の発達に鉄不足が悪影響を与える」と明記されています。
鉄は、脳の神経伝達物質を作るために欠かせないミネラルで、鉄、たんぱく質、ビタミンBなどの不足は、うつ病やパニック障害などの脳の病気の原因になることがわかってきています。
幼い子供の場合、発達障害の原因になっている可能性もあります。
私のクリニックでは、発達障害の疑いで来院するお子さんすべてに血液検査をしています。すると、ほぼ100%に鉄欠乏がみられるのです。
発達障害の治療をする前に、まずは食事の改善指導をするとともに、鉄剤(シロップ剤)やビタミンBなどを処方します。多くの場合、2週間から1ヶ月くらいで改善傾向が見られます。
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