子どもたちは高齢者との接し方を自然と理解している
―――ここにいる小さな子どもや小中学生たちは、お年寄りのことをどう意識しているのでしょうか?
「0歳の子、1歳の子、それぞれがそれなりに意識できていますよ。杖をついている人がいたら、前にあるものをどけたりもします。もちろんスタッフがそうやっているから、それを見て同じようにしているんですけどね。
お年寄りが座っている前を横切る時には『通っていいですか?』と聞いたり、前ではなく後ろを回ったりもして、子どもたちはよく見ていて理解もしています。むしろ親御さんのほうがバタバタと前を通ったりしているかも(笑)」
―――大人のやっていることを見ていれば、できるんですね。
「それは同時に私たちの緊張感にもなります。まったく同じことを真似されていくわけですからね。
高齢者施設って密室で、いまだに虐待ってなくならないですよね。それはやはり周りの目がなくて、密室で完結してしまっている世界だからです。でもここだと近所の人もしょっちゅう来ているし、小さな子どもも小中学生もいるし、自分たちの背中を見られているという意識が常にあります」
―――いい緊張感ですね。
「そうですね。“高齢者や障害をもつ人に対してやさしくしましょう”ってスローガンで言うのではなくて、“やさしくするとか思いをもつということを行動で示すと、どういう風になるのか”ということを常に意識して動いています」
先回りせずに待っていると、思わぬ嬉しいことが起きる
―――子どもや高齢者に接する時のコツってあるのでしょうか?
「スタッフにひとつ伝えているのは、『ここでは先回りはやめてね』ということです。自分で何かできることって、すごく嬉しいじゃないですか。その喜びを奪ってはダメですよ、と。
何かに気づいても、そこをグッとこらえて先回りしないで待っていると、思わぬことが起きるんです。たいがいはその思わぬ嬉しいことが起きる前に、そうでないことを想像して先回りしてストップかけちゃうんですけどね」
―――待つことって難しいですよね。ハラハラしたりじれったくなったりして、すぐに手を出してしまいます。
「大人はみんな苦手ですね。例えば、子どもが危ない場所に向かってちょこちょこ歩いているとします。それを、大丈夫かな?と見守ることはとても大事なんですよ。
でも、すぐに手を出さずに少し待っていると、その子のことをおじいちゃんが見ているかもしれない。そしてもしかしたら、おじいちゃんがその子のことを追って行ってくれるかもしれない…と予想しながら見守るんです。で、その通りになると、ひとりほくそ笑むという(笑)。よっしゃ、手を出さないでよかったって」
―――うわぁ、それは素敵なお話です。
「ふだんは腰が重くてなかなか動けないおじいちゃんが、思わず子どもに危ない!って思って動いたのだとしたら、それは何よりのリハビリになるんです。『立って歩きましょう、足上げをしましょう』と言われてするのではなく、気持ちが動いて自ら動いたわけなので」
―――自発的に、ということが大切なんですね。
「そうです。子どもにとっても、私たちが危ないよと制止することは当たり前なのですけれど、その時におじいちゃんが止めて守ってくれたという感覚が残ります。そうすると、そのおじいちゃんとの信頼関係ができるんです。このおじいちゃんは守ってくれる人だっていう。
さらに、私は親御さんに『今日はこういう場面があったのだけれど、おじいちゃんがこうやって手を出してくださったんですよ』と伝えると、その親御さんはおじいちゃんに直接『うちの子を見ていてくださって、ありがとうございました』とお礼を言います」
―――おじいちゃん、嬉しいですね。
「ですよね。とくにここは認知症の方が多いので、ご自身もご家族も、できなくなってしまったことに思い悩んだり、それこそ自己肯定感が下がりがち。そんな時に親御さんからお礼を言われたら、おじいちゃんにとってもすごくいいと思うんです。
私たちの仕事は、そういうことを予測しがら見守ること。やっちゃうことが仕事ではないんです。このことをスタッフに言い続けています」
―――家庭でもそうやって見守れたらいいのですが、なかなかそんな余裕がもてません。
「家ではそれでもいいと思うんです。だったらなおさら、せめてここでは先回りせずに待ってあげたいですね。
年度はじめのスタッフとのミーティングでは、『私たちはどんどん手を抜いて、じじばばっ子にしましょう!』って言ってます(笑)。小中学生も来てくれて、小さい子たちと遊んでくれますしね」