赤ちゃんの免疫の働きは、腸内細菌を含む腸の免疫システムが大きく支えています。しかも全身の約70%の免疫細胞が腸に集結し、0〜2歳の腸内細菌叢は、その後のアレルギーリスクや免疫バランスにまで深く影響することが分かってきているのだとか。
腸とプロバイオティクスの研究に30年以上携わってきた古賀泰裕先生に、最新研究をもとに、今日からできる赤ちゃんの腸活について伺いました。

▲話を伺った古賀泰裕先生(日本プロバイオティクス学会理事長、東海大学医学部消化器内科客員教授)
腸には免疫細胞の6〜7割が存在。腸は「免疫の本部」です
石橋(以下石):感染症の季節に関係なく、「赤ちゃんの免疫を強くしたい」という声が増えています。そもそも腸は免疫とどれくらい関係しているのでしょうか?
古賀先生(以下古):とても関係していますよ。腸には全身の60〜70%の免疫細胞が集まっています。腸の内側には“パイエル板”と呼ばれる免疫組織が広がっていて、腸内細菌の刺激を受けながら免疫の機能を鍛えています。
最近の研究では、
・腸内細菌の多様性が高い子ほど免疫バランスが整いやすい
・幼少期の腸環境がアレルギー発症のリスクに関係する
といったデータも次々と出てきています。
石:腸内細菌叢のバランスが整う=免疫が働きやすくなる、という考えは科学的にも裏づけが強いんですね。
赤ちゃんの腸内細菌叢は0〜2歳で劇的に変わる。1日単位で細菌構成が変化することも
石:赤ちゃんの腸って、そんなに変化しやすいんですか?
古:はい。“ダイナミック”という言葉がぴったりですね。
腸内細菌叢は生後すぐから一気に増え、0〜2歳で驚くほど劇的に変化します。海外の研究でも、「同じ赤ちゃんでも1日ごとに細菌の構成が変わる」という報告があるくらいです。
母乳栄養の時期はビフィズス菌が中心になり、比率が90〜95%に達することもあります。その後、離乳食が始まると一気に多様化していきます。
出産時、赤ちゃんは「最初の菌」をどう受け取る?

石:赤ちゃんが最初に菌をもらうのは「出産の瞬間」と聞きます。
古:そのとおりです。経腟分娩では、産道や肛門周囲の菌が赤ちゃんの口から入り、最初の腸内細菌の土台になります。
一方でよく聞かれるのが「帝王切開だと菌がもらえないの?」という不安。最近の研究では、帝王切開児は生後しばらく「皮膚由来」の菌が多く、腸内細菌の立ち上がりがやや異なることが分かっています。
ただし、時間とともに自然分娩児とほぼ同じ腸内細菌叢に近づくことが確認されているので、帝王切開の方も安心してほしいです。
石:「自然分娩児とほぼ同じ腸内細菌叢に近づく」というのは、どのようにそうなるのですか?
古:授乳や抱っこ、肌の触れ合い、ママの皮膚常在菌との接触です。生まれたあとの生活環境や接触もとても重要だということがわかります。
日本の子どもの腸内細菌は、アジアで「最も多様性が低い」という衝撃データ
石:先生のお話で、「日本の子どもの腸内細菌は、他国と比べて多様性が低い」と聞いて衝撃でした。
古:九州大学を中心とする国際共同研究ですね。韓国・中国・タイ・インドネシアと比較したところ、日本の学童は腸内細菌の多様性が最も低いというデータが出ました。
背景には、
・食生活の均一化(同じメニューが続きやすい)
・野菜・豆類・海藻の摂取量の減少
・食べる品目数の乏しさ
などがあると考えられています。
石:確かに、大人でも忙しいと同じメニューになりがちです…。
古:そうですよね(笑)。多様性の確保には、「いろんな食材を少しずつ」が重要です。
赤ちゃんの離乳食は「食べる練習」の面も。だからこそ多様性が育ちにくい時期でもある

石:離乳食は「栄養を摂る」というより、「栄養を摂る練習」「食べる練習」の意味合いもありますよね。
古:まさにその通り。赤ちゃんはまだ味や食感に慣れる段階で、「好き嫌い」「食べムラ」「体調で食べられない」など、食材が偏りがちな時期です。
ですから、「腸活のためにバランスよく食べさせなきゃ」と思いすぎなくても大丈夫。離乳食を進める中で、少しずつ新しい食材を加えていき、腸内細菌の多様性を育てていってもらえればと思います。
腸や腸内細菌が育つ環境を整える補助の選択肢
石: 赤ちゃん向けのオリゴ糖やビフィズス菌などの補助食品は、腸のために役立つのでしょうか?
古: 役立ちますよ。ただし、あくまで「食事では補いきれない部分を支える存在」と考えるのが自然です。
赤ちゃん期の食事にはそもそも、
食べられる食材の幅が狭い
食べムラや偏食が起きやすい
体調で食事量が大きく変わる
といった特徴があり、その日ごとに腸内細菌が働くためのエサ(基質)が不足しがちなんですね。
腸という臓器は、カサ(食物繊維など)が入ることで毎日動き、その動き自体が腸の成長につながります。ところが赤ちゃん期は、このカサを十分に確保するのが難しい。
そのため、便が出にくくなっている、食事量が落ちている、偏りが続いている、といったタイミングで、腸内細菌のエサになる成分(オリゴ糖やビフィズス菌など)を補うのは、腸内細菌叢が育つ環境を整える意味で合理的です。
基本は毎日の食事で、無理なく続けられる工夫を積み重ねることがいちばん大切です。
監修/古賀泰裕(こが・やすひろ)●日本プロバイオティクス学会理事長。東海大学医学部消化器内科客員教授。1978年、九州大学医学部卒業。同大学院にて医学博士取得。九州大学生体防御医学研究所助教授、東海大学医学部感染症学部門教授を経て、2018年より現職。現在はプロバイオティクスの研究開発に従事。
▼
▼
▼

取材・文/石橋紘子




